[トルコ]無計画な都市開発によるゴーストスペースの出現

中央アナトリア地方に位置するトルコの首都アンカラ。歴史的建造物に加え、オペラやバレエ、交響楽団など文化・芸術の拠点としても国際的に名高い巨大都市です、十分な計画のなされないまま行われてきた都市開発による、公共スペース等のゴースト化が近年問題になっています。

第二次世界大戦以降、トルコでは急激な人口増加に伴い都市化が進みました。アンカラでは、1955 年より計画の見直しがはじまり、現地政府や自治体・建築家がデザインを一手に担うトップダウン型の都市開発の潮流が確立されます。特に、1983年以降に域内が5つの市に分割されてから、自治体の意思決定権はさらに強固なものとなりました。加えて、近年の財政危機は公共事業の中断を招き、新しいインフラ開発プロジェクトは軒並み凍結。民間工事の70%が中断している状況が、街のゴーストスペース化に拍車をかけています。

トップダウン型のまちづくりと情勢不安が生み出したゴーストスペースは、多くの市民の利用目的に沿わず、景観や治安上の問題だけでなく、市民の無力感を増大させたり、地域に対する住民の知識や所属意識の欠如を招いたりする原因になると指摘されています。人通りの少ない場所は犯罪リスクが高まるため、ゴーストスペース化は街の治安維持や住人の幸福度、旅行客の動員などにも影響が出る問題です。このような現状から、トルコでは市民の生活の質の向上を目的とした、市民のニーズに寄り添ったまちづくりが急務となっています。

またトルコは自然災害も多く、近年のトルコ・ギリシャ沖地震は人命の損失だけでなく、大きな経済損失や財政不安ももたらしました。防災技術を備えた建築設計により、ゴーストスペースの解消に加え、人命や経済、自治体を守ることも必要です。

[マラウイ]急速な都市化により悪化した都市衛生

[マラウイ]急速な都市化により悪化した都市衛生 

 

マラウイは、近年急速に都市化が進むアフリカ大陸南部に位置する人口約1800万人の内陸国です。国内で最も大きな都市の人口規模で100万人規模ではあるものの、都市化率は4.19%と高く、廃棄物の処理に関する問題が浮き彫りになりつつあります。国内の廃棄物排出量は、年間30万トンにも及ぶのに対し、収集率は12%と極めて低い水準で、特に首都リロングウェや主要都市のブランタイアでは、多様化するごみの収集能力、輸送管理、粗悪なコンポストのキャパシティ不足。それによる悪臭等の感覚環境問題など、様々な課題が表面化しつつあります。

 

たとえば街で散見されるのは、ごみの散乱と投棄。特に路地や空き地などの公共サービスの行き届いていない区域では、投棄環境問題だけではなく治安の悪化にもつながっています。また、アフリカにおける主要な廃棄物である有機ゴミは、ハエなどの害虫を引き寄せる事が多く、害虫の糞口感染によって胃腸炎やコレラなどの病気が蔓延するリスクを高めています。プラスチックゴミについても、ゴミに溜まった水は蚊を繁殖させ、デング熱や黄熱病を広げる結果となっています。現在サブサハラでは、70%を超えるゴミがオープンダンプサイトに投棄されており、害虫・害獣の問題を発生させているだけでなく、温室効果ガスがコントロールされないままに放出されているために気候変動の原因にもなっています。

加えて、生ごみなどの有機物以外の、処理の難しいゴミに対する能力不足も廃棄物問題を深刻化させます。経済成長に伴い、プラスチックや電気電子製品、タイヤなどの処理に特殊な技術を要する廃棄物も増えつつあります。これらを適切に処理する技術や法制度が整っていない地域では、作業者に健康被害が出るケースや、環境汚染を引き起こすケースが多く見られます。

 

早急な対策が必要とされる廃棄物処理に対し、現地UNDP A-Labは、都市部の廃棄物収集・処理事業の能力向上や、プラスチックごみの再利用などのスケールアウトの検証を行うべきだと分析しています。先に記載した様に、アフリカは経済成長が目覚ましい注目の大陸です。マラウイ政府は新しいテクノロジーやスタートアップに対しても寛大であり、国内にビジネスとして取り入れることを前向きな姿勢で望んでいます。その一方で、マラウイはアジアやアフリカの大国と比較すると、内陸国家であることもあり海外のノウハウが届きにくく海外からの企業の参入が未だ少ない国です。その為、いち早くビジネスを立ち上げることでファーストムーバーとして経営を確立できるチャンスがある国でもあります。小国家ならではの新しいテクノロジー導入の際のデータ収集のしやすさや、新事業に前向きなマラウイの文化は、日本企業にとっても新しいビジネスの導入検討に際したサンプリングができるなど様々なメリットが期待できます。

 

[ベトナム]廃棄物処理、プラスチックごみの収集・廃棄

ベトナムでは、急速な都市化に伴い、廃棄物の処理能力の低さが問題化しています。ベトナムの主要都市ではごみ処理場がすでに処理能力を超えていたり、処理場が深刻な汚染により閉鎖したりするなど、各地でごみ処理場が能力超過の危機に直面しています。

 

UNDP A-Labによれば、たとえばダナン市では、毎日900~1000tの生活ごみが排出されており、排出量は2025年には年間5,200万トンに増加すると予測されています。現在の処理能力は、質・量ともに廃棄物の増加量に追いつかず、埋め立て処分される廃棄物は全体の70%で、残りは焼却や不法投棄されています。また、収集率も都市部では85%以上ですが、農村部では40%~45%と格差があります。すでに受入能力を越えつつある埋め立て処分場では、約1700世帯の周辺住民が、悪臭が漂う環境での生活を余儀なくされ、住民が埋め立て処分場へ通じる道路を封鎖し、ごみ収集者の侵入を妨害するなど、ゴミ問題は住民と自治体の争いにも発展しています。また、不適切な廃棄物処理は、汚染物質の漏洩など、環境・健康上の問題を引き起こす懸念があります。

 

そこでダナン市では、廃棄物処理能力の改善に向けて廃棄物処理のシステムデザインと導入を検討しています。日本企業の技術で特に期待が寄せられているのは、プラスチックごみの削減に係る3つの技術です。

 

  プラスチックの代替包装材料の導入

サプライチェーン上流における対策として、プラスチックに替わる包装材を導入する事で、廃棄物とプラスチックの更なる蓄積を防ぐ効果が期待されています。 

 

  衛星や探査機による廃棄物の測定

サプライチェーン下流での対策では、衛星やドローンの画像などの新しいデータソースやテクノロジーを使用した廃棄物測定のソリューションが特に必要とされています。日本企業の技術導入によって、こうした新しいテクノロジーを使用した革新的な廃棄物の管理方法を確立する事が期待されています。

 

  E-waste(電気電子機器廃棄物)の処理能力向上

最後に、電子廃棄物に対するソリューションです。電子機器のバッテリー電子廃棄物の収集と管理は、通常の廃棄物とは異なる処理技術を必要とし、正しい処理が行われない場合有害なものとなります。現在のベトナムのシステムでは、迅速に電子廃棄物を管理・処理するための設備が整っていないため、電子廃棄物の処理に関する技術導入も喫緊の問題となっています。

ベトナムの廃棄物処理に関する課題解決において、日本企業独自の技術が貢献できる可能性があります。

 

[日本]コロナ禍で浮き彫りになるフラワーロス

クリスマスや新年の祝い事、成人式と、年末年始の様々なイベントを華やかに彩る生花。しかしながら、コロナ禍で多くの催事が中止やオンライン化する中で需要が低迷し、生産された生花が大量に廃棄される「フラワーロス」の状況が浮き彫りになっています。常に生花業界に内在していた課題が顕在化し、各業界で解決に向けた新たな試みが始まりました。

 

ロスフラワーを使った装飾での課題発信

ラフォーレ原宿では、今年のクリスマスシーズンの装飾に廃棄された生花「ロスフラワー」による館内装飾をほどこしました。廃棄植物を用いた空間装飾やフラワーアレンジメントの教室などを手掛ける株式会社RINがプロデュースした装飾は、訪れる人々の目を楽しませるとともに、持続可能な社会に向けたメッセージを発信。

一度廃棄され活力を失った生花も、手入れにより見事に息を吹き返し、また、ドライフラワーとしてアレンジすれば見事に美しい姿で人々を楽しませてくれます。

 

「チャンスフラワー」としての格安販売と再利用

廃棄予定の生花を「チャンスフラワー」とブランディングし、フラワーロスの削減に努める生花店もあります。東京都港区の生花店hananeでは、生産量全体の2〜3割をも占める規格外の生花を農家から買い取り、1本100円程度と市場価格よりも廉価にに消費者に提供しています。

hananeにおけるチャンスフラワーの売上は、多い時で月間9000本。2020年からはブックオフの一部店舗でも取扱いがはじまるなど事業は広がりを見せています。

 

 

日本国内の切り花の購入金額は1990年代をピークに業界全体で右肩下がり。

そんな時流においても、生花業界は生産者から農協や市場が買い取り、卸業者を通して小売業者が消費者に販売するという典型的なプロダクトアウト型の構造をしているため、「規格ロス」の他にも、流通過程で発生する「マージンロス」や、小売店における需給のアンバランスによる「鮮度ロス」と、多段階のロスが発生しています。また、一般的に出荷数の約3割が過剰在庫として廃棄されるため、損失分の仕入れコストを上乗せした販売価格が設定され、消費者の足が遠のくという悪循環も指摘されています。

定期的に一定量の旬のお花が手に入るサブスクリプション型の販売など、イノベーションが起こりつつある生花業界に、サステナブルな取り組みが求められています。

[フィリピン] プラスチックゴミ問題と都市開発

UNDP Accelerator Labsフィリピンによると、世界では年間800万トンのプラスチックゴミが海洋に流れ出ています。紙や牛乳パックが捨てられてから土に還るまでの期間はおよそ2週間〜5年であるのに対し、ペットボトルなどを含むプラスチックゴミの残存期間は400年以上。長期間にわたり生態系に影響するため、たとえば、海に沈んで蓄積することで海底の無酸素状態を引き起こし生物を窒息させてしまう原因になったり、水中に届くはずの光も遮り光合成を阻害することで海藻や珊瑚に深刻なダメージを与える恐れがあります。

また、これによりプランクトンや海藻の量が減ると、それらを餌にする海の生物の漁獲量にも影響を及ぼします。その問題の深刻さは、National Geographic2048年までに食用の魚がいなくなる恐れがあるという見解も出しているほどです。

また、経済成長著しい国では、急速な都市化が進んでいます。たとえば、フィリピンでは人口の60%が沿岸自治体及び沿岸都市内に暮らし、プラスチックの年間排出量は毎年270万トン。しかしながら廃棄物の処理能力は限られ、誤った方法で管理されているプラスチックはこのうち188万トンに上ります。海洋ゴミの排出量は世界第3位 にあげられ、特に人口が集中するマニラ湾の海洋廃棄物管理は、喫緊の課題です。

日本では2020年7月より買い物袋の有料化がはじまりましたが、フィリピンでも、プラスチックごみを減らすために使用制限やごみの適切な回収を呼び掛けるなど、様々な取り組みが既になされています。

 

1 . プラスチック包装の禁止

UNDPフィリピンのオフィスがあるマカティ市では2013年からプラスチックチックの使用が可原則禁止されています。

例えば、カフェやファストフード店では原則として紙製のストローが使われています。飲食品の小売店でもプラスチックのスプーンは提供せず、イートイン客にのみステンレス製のスプーンの提供を行っています。

 

2.  廃プラスチックとコメの交換

プラスチックごみを独自にコメと交換する自治体もあります。たとえば、マニラ首都圏モンティンルパ市 バヤーナンという集落では、2キロの廃プラスチックを1キロのコメと交換しています。廃プラスチックは本来1キロで7ペソ(約15円、1ペソ=約2.1円)にしかならないところ、30~40ペソ相当のコメを支給することで、市民の環境を配慮した行動を促しているのです。

加えて、人口1億700万人のうち約2割が貧困ラインで生活するフィリピンでは、穀物の配布が貧困削減や栄養状態の改善にもつながる他、町の浄化によるデング熱などの感染症予防にも役立つことが期待されています。

 

プラスチックごみによる環境被害は都市化とも密接に連携し、課題解決が急がれています。日本のリサイクル技術や処理技術が、フィリピンの課題解決に一石を投じる可能性があります。

[インド] 小規模農家の所得問題

     農業は第一次産業として、私たちの食糧需要を賄う重要な産業です。インドでは総人口の50%を占める1億3600万世帯が農業に従事し、その8割が2ヘクタール未満の小規模農家。このうち、5分の1以上の世帯が貧困層とされています。一方、インドは世界最大のスパイス生産者かつ消費者であり、年間輸出額は28億米ドルにのぼります。この、輸出売上に対し生産者収入が低いという構造には、農業技術とサプライチェーンの不平等が関係しています。

小規模農家の技術的な問題
多くの農家が資金不足に悩まされており、農業機械の普及率は1割程度に止まっています。農家の大半を占める零細・小規模農家は伝統的な農具(人力、畜力)による農作業を行っており、たとえ機械化のために集落での共同利用や農業機械所有者による賃耕活用しても、タイミング良く利用できないなどの問題があります。貯蔵施設の利用も大規模農家に止まり、適切な保存ができない小規模農家は、収穫期に低価格での販売を強いられ、利益が目減りしてしまいます。また、農民の多くは十分な教育を受けておらず、約3割は読み書きができません。自ら望んで農業に従事していない者が多いために向上心は低く、さらなる利益を見込める作物の選択や栽培方法、販売先などを選択することができないと指摘されています。こうした知識不足を埋め合わせるシステムにアクセスする手段がないことも、農業収入が増えない要因となっています。

サプライチェーンの問題
従来農産品は、1954年に制定された農産品流通委員会法(Agricultural Produce Market Committee:APMC)に基づき、州政府管轄の卸売市場である「マンディ」で通商許可を持つ仲買人による農産物の競りが行われてきました。しかし、競争性のない独占的な仲買により、売手である農家は提示された価格を受け入れるしかなく、また過剰な手数料をとられるなど不当な扱いを受けることもあります。農産物が消費者のもとに届くまでには複数の仲買業者の手を渡りますが、農家の売上は最終小売価格の3割前後まで圧縮されているとも指摘されます。
また、多くの地域では安全な交通インフラや保管、加工する環境が整っていないために、商品の形が損なわれるほか、配送が遅れるなど、特に生鮮食品についてはサプライチェーンの過程で約30~40%が廃棄されてしまっています。

SDGsビジネスのチャンス

1991年の経済自由化をきっかけに民間企業が農業セクターに参入できるようになったことから収穫後の農産物の輸送や保管状況が改善、さらにIT革命が相まって農産物市場の効率性も向上してきています。しかし、その改善は未だ小規模農家に浸透しきっていないのが現状です。スパイス農家の技術向上やサプライチェーンに関する課題解決には、企業にとって新たなビジネスチャンスとなる可能性が秘められているのではないでしょうか。 

[全世界]食糧の安定供給と地球温暖化対策の両立

世界の食肉生産は、1960年と比べ5倍にまで増加しています。原因は、世界的な人口増加や途上国の急速な経済成長に伴う、消費者の所得増加による食肉消費の増加です。食肉需要を補うことは食の安定供給のためにも急務となっていますが、食肉の生産は地球環境に大きく影響しています。国連のレポートでは、世界の温室効果ガスの排出元の14.5%が家畜であるとされており、食肉用の畜産が環境に大きな負荷となっていることがわかっています。 人口増加に伴う食肉需要への対応、そして地球温暖化への対策。エネルギー資源等がクリーンエネルギーを開発し、エネルギー需要と環境への配慮を同時に解決してきた例はあります。しかし、食肉の観点からこれら二つを両立することは現状非常に難しい課題となっています。現時点で行われている対策としては、肉の代わりに大豆を使用したソイ・ミートなどがありますが、本物の肉を食べたい消費者の間では普及率は高くありません。

そんな中、近年新しいアプローチで地球環境の改善を目指す動きが数多く登場しています。その一つが細胞培養肉の開発です。現在の細胞培養肉の製造・開発は牛肉・豚肉・鶏肉・魚にまで及んでおり、主にハンバーガーのパテやナゲット、ミートボールなどの加工肉としての使用が目されています。スタートアップ企業が生み出す技術に世界の注目が集まり、数々の大企業が投資を始めています。たとえば世界最大の食品多国籍企業である     Tyson Foods は、細胞培養肉の開発を進めるスタートアップ、Mosa Meat社に対し8億円の開発投資を行いました。また日本でも、Integri Culture社がシンガポールのShiok Meats とともにエビ細胞培養肉の共同研究を開発すると、今年7月20日に発表しました。

Journal Environmental & Science technologyの調査によると、現在の食肉生産が完全に細胞培養肉に替わった場合、温室効果ガスの排出をはじめ、エネルギー使用・土地利用・水の使用などの環境への影響を平均して80~90%も削減できることが示唆されています。地球温暖化・気候変動問題の解決は非常に重要な項目として、現在のSDGs だけではなく長年議論が交わされている項目の一つです。1992年に採択されたAgenda 21-Climate Changeをはじめとし、日本で採択された京都議定書など長年対策が講じられてきている地球温暖化ですが、気候変動による地球の変調は年々大きくなっています。

一部の統計では世界の細胞培養肉市場は、年間15%の成長率を有し、2025年には214億円の市場になると予測されています。シャーレの上で作られた肉が食卓に並ぶ日も近いかもしれません。

 

 

 

[トルコ]繊維産業で働く女性の過酷な労働環境

世界のグローバル化・ファストファッションの流行により、発展途上国の一部では多くのファストファッション工場が立ち並び地域の経済の発展に貢献しています。一方で、低価格化競争のしわ寄せが下請け企業に及ぶことで、労働環境の粗悪化・低賃金等の労働問題の温床になっているという側面もあります。

GAP, H&M, ZARAなど、世界のファストファッションブランドの製造工場が立ち並ぶトルコは、古来より美しい織物の技術が栄えてきた国です。繊維品輸出は輸出総額の25.9%を占め、繊維産業はGDPの7.5%、工場生産全体の19.9%、製造業雇用の23.9%を生み出しています。また、アパレル輸出では世界第4位、テキスタイルでは第10位に位置しています。中でも、トルコの経済発展を担う繊維産業で活躍を見せているのが女性労働者です。トルコの女性就業率が22%と、近隣の中東・ヨーロッパ諸国と比較すると低い中、繊維産業に限ってはその状況は一変し、40%までその就労率は上がります。このように、繊維産業では若者から年長者まで多くの女性労働者が働いていますが、一方で男女での労働格差は深刻な問題となっています。

 イスタンブールの繊維工場では、女性の働き方に関して、女性ならではの就労上の都合が考慮されない場合が多くあります。

例えば、職場でのセクシャルハラスメントの横行、女性社員は男性と同じかそれ以上の量の仕事を任されているにもかかわらず、低い賃金しか得られないという現状が挙げられます。また、生理による休業が有給として認められておらず、生理休業を取った際には3日分の給料をカットされるという賃金の大幅なカットも女性社員を苦しめています。

労働環境における女性の地位向上は多くの国における課題ですが、女性管理職や女性社員が多く多様性が認められる企業では、同業他社と比べ生産性が高く業績がアップしていることもいくつかの統計で指摘されています。ビジネスの成功や経済成長における女性の働く環境整備の重要性は、世界的にも証明されてきているのです。

[モザンビーク] COVID−19により広がる教育格差

COVID-19の影響は世界的な経済面の格差にとどまらず、教育の格差についても顕著に表す状況を生んでいます。オンラインでの授業が一般化していく中で、インターネットへのアクセスの可否は世界的な教育格差をより一層大きくしつつあります。

先進国の高所得者層の家庭はオンライン教育への移行が容易に進んだ一方で、発展途上国を中心とした低所得者層の多い地域ではオンライン教育の十分な供給が難しい状況にある為です。

南アフリカ共和国の北西に位置する国、モザンビーク。独立直後、15年間続いた内戦によって発展が遅れたものの、アルミ製錬事業や水力発電などの大型プロジェクトによる経済の牽引、豊富な鉱物資源と農業開発のポテンシャルを活かし好調な経済成長を維持してきました。しかしながら、依然として世界の最貧困国の一つとして数えられ、特に社会セクターに多くの課題を抱えていることも事実です。

教育に関しては、94%の児童が小学校に入学しますが、そのうちの60%近くの児童が初等教育を修了する前に中退してしまいます。女性の教育水準に至っては1%の学生しか大学まで学業を続けることができない状態です。

COVID-19の影響により、対面授業が困難になった今、子供たちの学習継続はさらに困難になっています。

モザンビークでは、授業をラジオ配信で行う措置を取りましたが、教師と生徒の間でコミュニケーションを取ることはできないため、授業への質問を初め、様々な授業に必要なやりとりができない状態が続いています。

[ジャマイカ] 治安悪化や差別集落の形成を助長するジェンダー不平等

管理職における女性の割合が実に過半数と、世界でも女性の社会進出が進んだ国のひとつである、ジャマイカ。高級官僚やビジネスエリートから、商店を切り盛りするおかみさんまで、町の至る所で活躍する女性の姿が見られます。しかしそれは、決して男女平等な社会を意味する訳ではありません。

南北アメリカの薬物や武器の密輸中継地であり、拳銃犯罪や性犯罪が横行する首都キングストンは、殺人事件の発生率が世界第2位(2017年、10万人あたり57)。

また産業も乏しく、20代の失業率は約3割でそのうちの6割は男性です。植民地時代に奴隷同士の婚姻が認められなかったカリブ諸国では、現在でも生まれてくる子どものうち半数以上が婚外子。女性が大黒柱となり働きながら子供を育てる「母系社会文化」 が定着しており、学業からドロップアウトした不良少年や、就業機会に恵まれず家庭にも居場所がない男性に対する社会支援やセーフティネットはなく、ギャング団で密輸や詐欺、強盗などの犯罪に手を染め生計を立てるケースが後をたちません。

また、「男性は男性らしく、女性は女性らしく」という異性愛尊重の文化があり、LGBTや性同一性障害を持つ人々への偏見や差別が根強く残っています。背景には「ラスタファリズム」という土着の信仰による考え方があると言われていますが、そんな世間の差別を逃れて、スラム街でひっそりと暮らすLGBTのコミュニティも存在します。

ジェンダー推進は、決して女性の社会進出を助けるだけが解決手段ではありません。ジャマイカの治安を改善し、貧困を削減するためにも、多様なジェンダーを受け容れ、エンパワメントできる社会になることが、重要な課題となっています。