2019.12.20 SHIPニュースレター [Vol.17] 国内外で進む、ビジネスを通じた障害を持つ人々のエンパワメント

SHIPニュースレターをお届けします。今回のビジネス最新情報では、SDGsのなかで重要なテーマのひとつである「障害を持つ人々をエンパワメントする」ビジネスを取り上げています。また、1月15日開催の、UNDP中央アフリカ職員によるSHIPコミュニティ限定セミナーのご案内もあります。どうぞご覧下さい。
 

■ CONTENTS ■ ============================
【SDGs X ビジネス最新情報】
  国内外で進む、ビジネスを通じた障害を持つ人々のエンパワメント
【From UNDP】
 「アフリカの今 ~平和構築からビジネスまで~」セミナー開催のご案内
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 【SDGs X ビジネス最新情報】
   国内外で進む、ビジネスを通じた障害を持つ人々のエンパワメント
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毎年12月3日はInternational Day of Persons with Disabilities(国際障害者デー)。
この日グテーレス国連事務総長は、今年6月に国連が発表した「国連障害者インクルージョン戦略」に言及し「障害を持つ人々の権利を守ることが、誰一人取り残さないという誓い(=SDGs)の達成に近づくことだと強調しました。
 >>「国連障害者インクルージョン戦略」についてはこちら英語のみ)

SDGsの導入文では障害を持つ人々や子供、高齢者、先住民、難民などを”脆弱な人々”と位置付け、「特にこれらの人々の特別なニーズに応える必要がある」と述べています。また、17のゴールでも、ゴール4.質の高い教育をみんなに、8.働きがいも経済成長も、10.人や国の不平等をなくそう、11.住み続けられるを のなかで、「特に障害を持つ人々のニーズに配慮し、彼らをエンパワメント(*)すべきである」と定められています。
 *)エンパワメント:権利を与える、力を与える、自信を持たせること

では、ビジネスを通じて、どのような形で障害を持つ人々をエンパワメントできるのでしょうか。すでに、国内外で様々な動きが始まっています。

福岡市にあるガンツ不動産は、すべての人に賃貸入居を提案する「ユニバーサル賃貸」をコンセプトに掲げ、2017年から、とくに障害を持つ人々に向けた賃貸物件探しや契約に関するサポートサービスを提供しています。このサービスの開始以来、地元の障害者団体からは「住む場所の選択肢が増えたことで障害者の職業の選択肢が増えた」と評価され、地域社会における、障害を持つ人々のエンパワメントに確実なインパクトを与えています。

東大発スタートアップのBionicMは代表の孫氏が2015年から研究してきたヒューマノイドロボット技術を応用した「ロボティック義足」を開発・販売する、2018年設立の企業。孫氏自身も幼少期に病によって片足を失った方で、長い義足生活のなかで、既存の義足に疑問を抱くようになったといいます。現在の義足の99%以上が動力を持たない受動式義足であり、その使い勝手の悪さが利用者の身体的、精神的負担になっていることを受け、障害者自らが課題を解決しビジネス化した好例といえるでしょう。同社は香港で開催された世界的ピッチイベント「Elevator Pitch Competition2019」で最優秀賞を受賞しました。世界でも注目を集める障害を持つ人々をエンパワメントするビジネスです。

また海外でも、障害を持つ人自らが障害者をエンパワメントするビジネスを創出する動きが盛んになっています。トルコのWeWalkは視覚障害を持つ技師Kursat Ceylan氏を中心とした「スマート白杖」を開発・販売するスタートアップ。彼らが開発したのは、杖のハンドルに超音波センサーが内蔵され、目の前に障害物があると振動で知らせるとともに、音声アシストとGoogleマップを連動させ、ナビもしてくれる白杖。その画期性と社会へのインパクトが評価され、米国Time誌が主催する「The 100 Best Inventions of 2019」で最優秀賞を受賞しています。

”障害を持つ人々をエンパワメントするビジネス”とは、彼らに向けたサービスを提供するだけでなく、ビジネスのパートナーや担い手として、共に持続可能な社会を作る力として加わってもらうということが重要だといえます。SDGsがめざすのは、障害を持つ人々と健常者が何の区別もなく共に働き、ビジネスを創り出す時代 ーー その実現に向けて、SHIPは皆さんとビジネスを創出していきたいと考えています。

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 【From UNDP】
  SHIP法人会員・コミュニティメンバー限定セミナー
   「アフリカの今 ~平和構築からビジネスまで~」セミナー開催のご案内

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SHIPはこれまでにも、世界各国の生の課題をお伝えし、SDGs達成をめざしたビジネス構築のヒントにして頂くために、SHIP法人会員・コミュニティメンバー限定のセミナーを開催してきましたが、この度、UNDP中央アフリカ共和国事務所のプログラムスペシャリストの帰国に際し、「アフリカの今 ~平和構築からビジネスまで~」と題するセミナーを1月15日に開催しますので、ぜひご参加下さい。 

セミナーでは、中央アフリカ共和国における開発課題や、現地の人々の収入向上、インフラ整備などのUNDPの取り組みについてお伝えするとともに、アフリカ全体におけるUNDPのビジネス支援策の概略について、開発の最前線からの情報をお伝えします。また、講演終了後は懇親会も開催しますので併せてご参加下さい。

【日時】 1月15日(水)18:00-19:10
     *終了後19:45まで会場内で懇親会を開催
【場所】 Japan Innovation Network 
     東京都千代田区内幸町1-1-1 帝国ホテルタワー8階 A-3)
     >地図はこちら(PDF)
【定員】20人 ※要事前登録
【参加費】無料
【お申込み】こちらから

 スピーカー略歴:
  槌谷恒孝(UNDP中央アフリカ共和国事務所 プログラムスペシャリスト)
  岐阜県出身。青年海外協力隊でブルキナファソに赴任後、商社に勤務し、
  アルジェリアに駐在。退職後、イギリス留学を経てJICAアフリカ部特別
  嘱託、JICA コンゴ民主共和国事務所企画調査員、WFP東京事務所コン
  サルタント、UNDPコンゴ民主共和国「警察改革プロジェクト」プロジェ
  クトマネージャー、「南ウバンギ州における紛争影響コミュニティの安
  定化と再統合のための緊急プロジェクト」プロジェクトマネージャー、
  「北キヴ州ルチュル地域における元児童兵の社会復帰のための国連共
  プログラム」プログラムコーディネーターを経て現職。

[インド/アフリカ等] 衛生作業員の過酷な労働環境と認められない尊厳

2019年11月、国際労働機関(ILO)、ウォーターエイド、世界銀行、世界保健機関(WHO)が共同で発表した報告書によれば、開発途上国で数百万人いるといわれる「衛生作業員(人間の排泄物処理に従事する職人)」のほとんどが、機材も安全対策も法的な権利もないという非人間的な労働環境での労働を余儀なくされているという。調査発表をおこなった4つの団体は、非人道的な労働環境に対する注意を喚起し、その改善を強く促そうとしている。

人の排泄物処理のシステムは、トイレから始まり、排泄物が処分または再利用されるまでが一連の流れであるが、このシステムの様々な段階や過程において、衛生作業員達が働いている。彼らの仕事には、トイレ掃除、排泄物を溜めたタンクや水槽の汲み取り、下水道やマンホールの清掃、ポンプ場や処理プラントの操作などがあるが、こうした仕事に従事する彼らの多くが人の排泄物に直接触れ、機材や安全対策もない条件下で長時間作業をし、さまざまなガスやウィルス菌に暴露されるリスクと隣り合わせでこの仕事に従事している。

まず、命と健康にかかわる問題の一つに、有毒ガスがある。浄化槽や下水道に発生するアンモニア、一酸化炭素、二酸化硫黄などの有毒ガスは作業員の意識を失わせたり、時に死に至らしめる。正確な統計データはないものの、インドだけでも5日おきに約3人の衛生作業員が死ぬケースがあると推定されている。

一方、人権に関する課題も多い。こうした衛生作業員は多くの場合、階級社会がまだ残る社会においては下層とされる人々が就く職であり、社会から疎外され差別を受ける人々である。そんな彼らの仕事は、賃金相場も不確定で、法的権利や社会保障などもない。経済的な安定もなく、保障もないことが負の連鎖となり、かれらは貧困からさらに脱却できないのだ。

報告書では、衛生作業員の過酷な状況がわかる例がいくつか紹介されている。

インド、バンガロールの衛生作業員、Somappa。排泄物タンクの掃除は素手と裸足。傷のある足を感染症から守るためにビニール袋を巻き付けている。

アフリカ、ブルキナ・ファソのWendgoundiは、自分の職には何の尊厳もないと嘆く。「何か記録が残るわけでもない。何の実績や足跡も残らない。自分は何者でもなく、死んでもただ死ぬだけ。自分の子にわたしと同じ仕事はやらせたくない」

イギリスのNGO、ウォーターエイドの最高経営責任者(CEO)ティム・ウェインライト氏は、「誰かがトイレにたまった廃棄物を適切に処理しなければ、その衛生環境は悪化し、利用者の衛生リスクも高まる。つまり衛生作業員は、あらゆる社会で最も重要な役割の一つを担っているのだ。しかし彼らは健康と命を危険にさらす環境で働かざるを得ず、感謝もされないどころか、汚名と疎外感を背負わされている。これは決して容認されるべきことではない」と強調している。

WHOも11月15日のHP発表にて「2030年までに持続可能な開発目標6を達成するためには多くの衛生作業員等が、安全で、健康で、尊厳ある労働条件の下で働くべきである。社会全体の健康を守る衛生システムをきちんと維持する人々のため、安全で威厳のある労働環境を確保すべき」としている。

世界中の発展途上国の衛生作業員達の権利と福祉の向上に資するソリューションが求められている。

[インドネシア/マレーシア等] 越境により広範な地域に被害をもたらすヘイズ(煙害)

東南アジア地域、特にインドネシアが抱える環境破壊問題の一つ、ヘイズ(煙害)は、年々深刻さを増しているが、特に今年8月から発生したとみられる森林・泥炭火災は、4年前に起きた当時史上最悪といわれた大規模森林火災に匹敵するレベルだといわれている。

9月19日発表のロイター通信の記事では、今回の泥炭火災に関する懸念すべき事実情報を7つ挙げている。

1: 泥炭地を野焼きすることで地中のバイオマス成分が燃やされ、泥に含まれていた炭素が大気中に放出され煙が発生する。この有機炭素の中にPM2.5として知られる微粒子が含まれており、人体や気候変動に深刻な悪影響を与える可能性がある。

2: 泥炭は腐敗した植物の堆積したもの。この泥炭が燃えるとその泥の深さと密度のため消火が非常に困難であり、一度燃え始めると数ヶ月、長ければ数年もの間、燃え続けることがある。また泥炭は乾燥していると特に可燃性が高まる。森林開拓によって地下水を失い、干上がった状態の泥に燃え移れば、そのまま予期せぬエリアにまで火災が広がっていく。そして炎は泥炭を焼き尽くすと同時に、そこにあるこれから成長するはずの木々の根や種子までも燃やし尽くす。

3: 2015年9月に起こった、当時史上最悪とされたインドネシアのヘイズ被害。そのときの危機と比較しても、今回の方が、有機炭素による汚染がより広範囲に広がっていることが分かった。データによれば2015年のケースでは煙霧はまばらなところもあったが、今回の場合、より濃度が高い広範な煙霧が発生している。

4: インドネシア環境・林業省の調査データによると、ボルネオ島カリマンタン州の州都パランカラヤの大気汚染指数は500で「危険」レベルのまま。また、その他の地域、ジャンビ州やリアウ州などでも指数100またはそれ以上の数値となり「不健康」レベルとなっている。

5: インドネシア災害管理委員会のSNS発表によると、インドネシア政府はスマトラやボルネオ等の6つの州で非常事態宣言を発令。29,000人以上の軍、警察、関係省庁職員を動員して火災地域の大規模消火活動を進めている。

6: 隣国マレーシアとシンガポールにも悪影響を及ぼしており、二国で大気汚染指数が「不健康」レベルとされた。また、マレーシア政府は影響がみられる地域にある数千もの学校を閉鎖。この状況を打開するため非常手段として人工降雨を展開。また国民にマスクを配布。

7: インドネシア保健省の発表によると、パランカラヤでは11,758人、リアウでは15,346人、ジャンビでは15,047人もの人々に急性呼吸器感染症の症状が見られているという。

 

このインドネシアで発生した泥炭火災に関しては、WWFジャパンも「緊急報告:インドネシアで泥炭・森林火災が多発」として、問題の大きさと緊急性について発表している。その報告の中の「日本からできること」では、起こってしまった泥炭火災の消火活動に関する支援の必要性と、このような火災や煙害、森林破壊を未然に防ぐための企業の責任について、こう呼びかけている。

“海の向こうで起きている森林火災への対応には、まず消火活動への支援が急務です。しかし、この問題を解決するためには、こうした地域で生産されたパーム油や紙を輸入し、購入している日本の企業や消費者の理解と協力が欠かせません”

 

負の連鎖に歯止めをかけ、さらなる森林破壊、大気汚染を起こさないための策が、緊急で求められている。

 

[アフリカ] 多くの人々が苦しむHIV、結核への対策資金不足

今年10月に開催されたフランス・リヨンでのグローバルファンド増資会合で、国境なき医師団(MSF)が報告した内容。それは、「HIV/エイズ、結核対策のための資金が減少気味で、今だに続く現地住民の苦しみを手助けするため更なる支援が必要」との切実な声であった。

MSFの報告によれば、HIV対策に充てられた国際援助と各国政府の国内予算合計額が、2018年に過去10年間で初めて減少に転じ、低・中所得国に対しては10億米ドル(約1068億円)もの支援が縮小されている。結核対策の資金も同様、さらに減少がつづけていて、国連の調査によればその額は年間35億米ドル(約3737億円)も減っているという。しかしHIVと結核は、今だに年間200万人以上の命を奪い、決して収束などしていない。

中央アフリカ共和国では、少なくとも11万人がHIVとともに暮らしている。
ギニアは2010年から2016年の間にHIV/エイズによる死亡者数が7%、結核による死亡者数が5%増加。
ミャンマーはアジアでも特にHIV保有率が高い国の1つだが、資金不足は現在1億5000万米ドル(約160億円)にも上るとされる。
エスワティニ王国(旧国名:スワジランド王国)でもHIV/エイズ対策資金の不足は2020年に過去最大の2490万米ドル(約27億円)に達する見通しだ。